継続力の源は楽しむこと

櫓 さん(50代男性 不動産業経営 2018年合格 受験回数2回)

【受験のキッカケ】

千葉の片田舎で、不動産業を経営している者です。キッカケは、胃がんと三年間闘病しこの世を去った、長年連れ合った糟糠の妻との別れになります。妻の助けのもと、長らくこの業界で働き、開業もし、細々とですが食うに困らぬ程度の売り上げ、この先独り身の男が暮らしていける程度の貯蓄も幸い作れました。なれば、妻を見送り、一人娘も無事結婚し、孫も見ることが出来た今、自分は残りの人生どう生きるかと自己問答したところ、若かりし頃に進めなかった道の方へ進んでいたとするならば、いかなる人生だったのかと好奇心が湧き出てきました。

三十数年前、東京の大学を卒業間近に控えた私は、東京でとある貿易会社に就職するか、実家のある千葉に戻り両親のそばで暮らすかを迫られる状況にありました。当時、母親が大きく体調を崩しており、父親が家業の農作業の傍ら母の介護をしていましたので、これは私が戻り手伝わねば両親の生活が成り立たないということから、実家に戻る選択をした次第であります。

かくして、私の貿易業界への道は絶たれるのですが、50を越えて60に差し掛かろうかという今、そちらの道に改めて踏み出すまでの気持ちがあるかと問われればそこまででもなく。ならばせめて、現実的な代替案として、貿易業界の資格を取得し、気分だけでもそちらへ行くのはどうだろうかと思慮し、通関士資格取得を目指したところであります。

【一度目の受験、失敗そして反省。】

予備校と各種通信教育の資料を取り寄せ、どこかに申し込もうと吟味した記憶があります。しかし、居住地が田舎にあるため、予備校への通学はチョット遠いと断念。とある通信教育に申し込むことになりました。

通信とはいえ授業を受けるのは三十余年ぶりであったため、青春時代に戻ったような感覚がよみがえり、何とも言えない感慨に耽ってしまいました。それで授業を受けている自分に酔ってしまったところがあり、今振り返れば内容をよく理解しないまま次の授業へ、次の授業へ気持ちばかりが先走り、雰囲気を楽しめたのはいいが、内容の習得の方はしていなかったといえます。

一度目はそんな状態で受験したものですから、当然、どの科目も合格に程遠い点数でした。受ける1ヶ月前になって、今年は受からないだろうと踏んでいたくらいですから当然です。来年は地に足つけていこうと反省です。それでも、不思議と悔しさとか悲しさとかいった感情はありませんでした。青春時代をもう一年、楽しめるじゃあないかと安心感が勝っていました。

【二度目の受験、自信の合格。】

二度目に向けては年明けから勉強を再開。もう一度、講義のDVDを一から視聴し直しです。年齢的なこともあり若い頃に比べれば忘れっぽくなる己の頭をフル回転させ、一度だけではなく二度ずつ視聴しました。同時に演習をこなしました。ここでチョット工夫したのは、一度に多くの範囲を勉強せずに小分けにして進めたことです。もう若い頃の記憶力がないのは明らかだったので、小分けにして、授業でやった部分が完璧に覚えられるまで繰り返し復習し、覚えられなければ次の授業へは進まないという工夫をしました。結果的にこれが効いたのか、急がば回れで、大変良く覚えられました。一時間目二時間目の通関業法と関税法等はこれでよく覚えられました。

実務科目は、輸入申告書輸出申告書で苦労すると聞いていましたが、私は好きでした。普段仕事で契約書や約款を読むので、その感覚の応用で品目表を読むのが得意だったのでしょうか。アドバイスをするなれば、品目表のような法律文は数こなさないと正確に読めないので、不慣れならば問題に多く当たるしかないのではないでしょうか。

二度目の受験日は自信を持って挑むことができました。自己採点はしませんでした。二度目の受験を終えた日に、私にとっては合格の結果よりも、若かりし頃の気持ちを再び体験することが財産であったことに気づかされ、それを得たことで満足したからです。結果的には合格できましたが、楽しみながら勉強できたおまけのようなものです。

私はすでにもう隠居しようという身ですので、合格に必死になるより楽しみながら勉強しましたが、他の方はそうは言ってられないでしょう。しかしながら、勉強を楽しむ発想転換もときには結果に必要なのかもしれないです。楽しむことで継続して勉強できるという私のような例もあるからです。勉強に行き詰まったのであれば発想転換もいいですよ。