通関士試験と貿易実務検定は、国家資格と民間資格という違いがあるとはいえ、貿易関係の資格の中ではどちらもメジャーな資格なので比較されることがよくあります。
貿易実務検定は難易度の低い順からC級、B級、A級と分けられ、C級やB級を持っている方は通関士試験合格者にも珍しくないですが、最高峰のA級はあまり保有者がおらず、ましてや通関士試験と両方合格している方はかなり珍しい存在です。
2020年11月27日、第54回通関士試験において、みこ会から(私が知る限り)初めて、通関士試験と貿易実務検定A級のダブルホルダーが誕生しました。(おめでとうございます!)
そこで、通関士試験と貿易実務検定A級との比較を解説していただけることになりました。かなりレアなお話だと思うので、気になる方はぜひぜひご参考になさってください。
私は第54回(2020年)通関士試験に2回目の挑戦で合格することができました。合格体験記は別途、投稿させて頂きましたが(※当サイトの合格体験記にて掲載します)、一方、貿易系資格でよく比較の対象になる貿易実務検定試験があります。
私は貿易実務検定A級を取得(2017年12月試験に合格)しており、みこさんから両方の資格を保有している人は少ないようなので、その比較に関しての投稿を依頼頂きました。
よく比較される二つの資格(特に難関と言われるA級)ではありますが、結論から言えば、同じ貿易系の資格とは言え、この二つの資格は全く別の対策が必要です。
貿易実務検定試験は貿易実務全般(通関士試験と重なる、通関や関税の知識を含め、売買契約、インコタームズ、国際物流、信用状の見方や解釈・決済・保険等金融機関が扱う外為分野、国際紛争の解決手段等)について、広く出題されます。
決定的に違うのは、貿易実務英語と貿易マーケティングの科目があることに加えて、A級の場合は記述式(英作文を含む)もあり、その割合が高いことです。
こう申しますと、貿易実務検定A級の方が難しいと思われるかもしれませんが、どちらが難しいと感じるかは、各人の実務経験次第ではないでしょうか。
私が貿易実務検定A級を受けようと決意してからの勉強時間は約3ケ月程度でした。もちろん前提として、B級レベル(私の場合、2015年7月取得)の知識があることが必要です。英語は普段、仕事でビジネス文書を読んだり、メールでやり取りする機会がある方は、むしろ得点源になるかと思います。私の場合、実務では金融分野の仕事をしていますが、通関業務は門外漢ですので、合格まで2年掛かった通関士試験の方が断然難しく感じました。言うまでもなく、通関士試験は国家資格ですので、ステータスも通関士試験の方が上ではないでしょうか。
みこ会は通関士試験合格を目指す方の集まりですから、通関士試験に関する情報はたくさんありますので、ここでは貿易実務検定A級の特徴を私なりに述べたいと思います。
但し、合格してから3年経過(2020年12月現在)していますので、多少傾向が変更になっている可能性があること、あくまでも個人的見解であることをお断りしておきます。
通関士試験と多少なりとも重なるのは、『貿易実務』の科目ですが、この科目の中でも大きなウェイトを占めるのは、銀行の外為分野に関することのようです。具体的には信用状(L/C)取引や信用状無し手形取引に基づく、解釈や銀行に提出する依頼書や為替手形(BILL OF EXCHANGE)を実際に作成したり、信用状ベースの取引で不備(DISCREPANCY)や不渡りになった場合の対応、書類より先に貨物が到着した場合の対応(船荷証券の危機)、船荷証券(B/L)を紛失した場合の対応等が記述式か選択式で出題されます。たまたま、私はこの分野は実務で扱っており、得点源になりました。その他、船や航空機で貨物を運ぶ場合の運賃計算、B/LやAir Waybillの作成、インコタームズ、通関士試験とも重なる通関に関する知識、AEO、関税や消費税の計算等が出題されます。
特に今や貿易取引決済の1%もないと思われる、信用状に関する問題が多い印象です。貿易の決済において、信用状取引は今でも重要な役割を担ってはいますが、日頃、貿易取引に慣れた方でも、実際に決済で信用状を使用するケースは昨今、少なくなっており、実務で扱ったことがない方は記述式で回答が求められるA級レベルになりますと、他の項目や科目でカバーできないと合格は厳しいかと思います。
貿易実務英語はこの検定特有の英文和訳や和文英訳(三答択一)も選択肢がかなり紛らわしく、経済の知識が必要なビジネス文書の読解、英作文等、TOEICとは別の能力が求められます。特に英作文は配点(私が受けた際は30/150)が高いです。内容はクレーム処理や契約に関すること等、特に高度な内容ではありませんが、読めば簡単なことも、実際に英作文するには日頃から書く練習をしてこないと英文が出てこないと思います。
もう1科目、貿易マーケティング(試験は貿易実務と貿易マーケティング同じ時間帯で問題冊子は別々でした)がありますが、これは漫然として準備が難しい科目です。聞いたこともないようなマーケティング用語が出てきます。私はB級のテキストのマーケティングに関する箇所を読んだだけでしたが、40%程度しかできなかった気がします。この科目に関しては、実務では使わないよな、と言う内容が多かった気がします。
確かA級は合格基準を公表していないようですが、私が受けた時の感覚では結構間違えて、ほぼ諦めていたにもかかわらず(記述式がある為、完璧な自己採点は不可能)、意外にも合格できていましたので、合格基準は450点満点の60%以下(通関士試験とは違い科目毎の足切りはなく合計点)であることは間違いないと思います。
同じ年に通関士試験と貿易実務検定A級を受験するのは両方の試験に相乗り効果が全くないと言ってよいので、まず無理だと思います。迷われている方はご自身が貿易取引のどの分野に深く係わっているかを勘案され、どちらを先に制するか決めたら良いと思います。
特に優先順位がなければ、やはり国家資格でステータスが高い通関士試験から攻めては如何でしょうか。
日本は貿易立国です。どの資格にしても、日本の貿易の発展の為に、活用して行きたいものです。